本年度は骨髄細胞が硬組織形成細胞へ分化する条件を検討した。歯髄の細胞中には多分化能を有する細胞が少数ながらも存在している。本実験ではこれらの細胞を硬組織形成細胞へ分化せしめることにより歯髄の周囲に硬組織を再生させ保存を計ろうとするものである。申請者の教室では骨髄細胞を用いてそれを骨芽細胞へ分化させることを試みている。骨髄中には多分化能を有する細胞を歯髄細胞に比べ大量に含んでいるのでここで得られる結果は歯髄細胞にも十分あてはまると予想される。骨髄細胞の骨芽細胞への分化はデキサメサゾンやビタミンCとβグリセロリン酸で誘導されることが知られている。さらに近年骨芽細胞への分化がI型コラーゲンマトリックスによっても誘導されることが明らかとなった。この誘導はI型コラーゲンに特異的でIIからV型コラーゲンにはこのような効果は認められなかった。一方コラーゲンマトリックスによる誘導は、成長因子の一つであるTGFβにより促進された。以上のような結果が骨髄細胞の実験より得られているので、歯髄細胞についても同様の実験条件で行なったが、デキサメサゾン処理をしても分化の誘導は認められず、またコラーゲンマトリックスによっても誘導は惹起されなかった。このことは歯髄細胞中に多分化能を有する細胞が存在するものの、骨髄細胞中のそれに比べ細胞数や細胞自体の反応性が低いためと思われる。そこで骨髄細胞で最も良く骨芽細胞へ分化した条件であるTGFβ含有コラーゲンマトリックス上で歯髄細胞を培養したところ、アルカリフオスファターゼ活性が検出された。しかし骨芽細胞の形質である石灰化結節の形成は認められなかった。以上の結果はこれまでの培養条件では、歯髄細胞が硬組織を形成する細胞へと分化は認められなかったものの、硬組織形成細胞へと分化する可能性があることを示している。
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