本研究は、レジン-象牙質接合界面の超微構造を三次元的に構築し観察することにより、リン酸と次亜塩素酸ナトリウムによって処理された象牙質と接着性レジンの接着機構を解明することを目的としている。研究者らはこれまで、象牙質の表面処理としてリン酸と次亜塩素酸ナトリウムを用いた象牙質表面処理法について検討を行い、象牙質に対してもエナメル質に匹敵するほどの接着強さ及び接着耐久性が得られることを報告している。本年度は、この象牙質表面処理法を行った場合について試料作成方法を検討し、レジン-象牙質接合界面の超微構造の観察を透過型電子顕微鏡を用いて詳細に行った。その結果、リン酸と次亜塩素酸ナトリウム処理を行ったものは以前より樹脂含浸層は存在しないと言われていたがごくわずかであるがその存在を思わせる像が観察された。またこの処理法にセルフエッチングプライマー処理を追加することにより、象牙質表層にハイドロキシアパタイトの結晶を含む樹脂含浸層の形成が認められた。この樹脂含浸層は、接合界面に不安定なスメア層や脱灰コラーゲン層を介在しないため、いわゆる脱灰コラーゲン層内に形成された樹脂含浸層に比べ非常に安定であると考えている。レジン-象牙質接合界面の超微構造を三次元的に構築するためには、二次元のスライスデータすなわち連続した超薄切片のデータが必要である。しかし、象牙質のような硬組織は包埋樹脂の浸透性が悪いため超薄切には困難を伴ううえに電子線照射により試料が破壊されてしまうといった問題もあり、連続超薄切片は現在まだ得られていない。この様に、レジン-象牙質接合界面の超微構造を三次元的構築は難しいものの、様々な試料を作製し、透過型電子顕微鏡で二次元的観察を詳細に行うことによりリン酸と次亜塩素酸ナトリウムを用いた象牙質表面処理法の接着機構に関してかなりの部分が解明できたと考えている。
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