本研究の目的は、顎機能異常患者に認められる咀嚼筋活動の特徴を、正常被験者の協調活動様式との比較において明らかにすることである。平成7年度においては、正常有歯顎者5名を被験者として、咬合力の3次元的調節機構における内側翼突筋の活動様式、ならびに他の咀嚼筋群との協調活動様式について検索した。さらに、三次元咬合力測定装置を介在させ咬合させる際の下顎位を、前後的に変化させ、下顎の変位が咀嚼筋活動様式に及ぼす影響について詳細に検索した。 内側翼突筋活動の導出には、テフロン被覆のスチールワイヤ(直径0.045inch)を電極として用い、単極導出した。導出した筋電図は300Hzから1.5kHzで帯域濾過し、皮膚上に貼付した不関電極からの信号を遮断することにより、ワイヤ電極先端周囲の限局した筋活動を記録した。内側翼突筋の活動は、規定したすべての咬合力方向において咬合力の大きさの増大に伴い、有意な増加を示した。また内側翼突筋は、咬合力方向が前方および反対側方向に向かう際に、最も大きな活動量を示し、咬合力方向が前方から後方、反対側から同側に傾くにつれて、その活動量は有意な減少を示した。すなわち、内側翼突筋の活動は咬合力の大きさと方向の調節にきわめて密接に関与していることが明らかになった。 また下顎位の前後的偏位に伴い、咀嚼筋の活動様式が変化することが示された。咬合力方向の変化に伴う咬筋と側頭筋前部、後部の相反的な活動様式は、下顎位に関わらず認められた。しかし同一咬合力を発揮する際の各筋の筋活動量は下顎位によって異なり、咬筋では下顎前方位において増加し、側頭筋前部、側頭筋後部では後方位において増大した。側頭筋活動量の変化は後方位において、より大きいことが示された。
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