研究概要 |
1)チタン箔上における培養細胞の生理活性物質産生量の変化の検討 チタン箔上で骨芽細胞を培養した場合,マウス骨髄由来のものでは著明なプロスタグランジンE_2の産生が認められる一方,マウス頭蓋冠由来のものにおいてはこのような変化が見られなかった。骨髄由来骨芽細胞と頭蓋冠由来骨芽細胞ではtype I collagenなどの細胞外マトリックスの合成に差があり、チタンと細胞との接着様式の相違がこのようなプロスタグランジンE_2産生の違いをもたらすことが推定されたため、線維芽細胞およびガラスカバースリップを用いて接着とプロスタグランジンE_2の産生の関係について検討した。この結果,基質との接着に必要な細胞外マトリックスの合成が低い線維芽細胞ではガラスカバースリップ上で接着および増殖が著明に抑制されるのに比べ,チタン上では良好な接着と増殖が認められた。また骨髄由来骨芽細胞の接着試験ではチタン上でのみ優れた細胞接着が見られた。さらにガラスカバースリップ上でのプロスタグランジンE_2産生は骨髄由来骨芽細胞および頭蓋冠由来骨芽細胞の双方とも抑制が認められた。このことより骨髄由来骨芽細胞はチタンとこの細胞質と直接の接着をおこない,これがプロスタグランジンE_2の著明な産生を引き起こすものと考えられた。 2)チタンへの細胞接着を促進する新しい表面処理の検討 チタンと骨髄由来骨芽細胞の接着において基質と細胞の接着に必要とされるα_5β_1あるいはα_Vβ_3などのインテグリンの発現に相違がないかどうかをこのマトリッス蛋白のArg-Gly-Asp(RGD)モチーフを含むエキスタチンを用いて検討したところ,とくに有意な差は見られなかった。以上1)の結果とも考え合わせると骨髄由来骨芽細胞はチタンと直接の接着を行うが,これはチタン上で特殊な接着蛋白が発現しているのではなく,チタンの表面特性によるものでこの接着により産生される内因性の因子がプロスタグランジンE_2と考えられる。プロスタグランジンE_<2A>はin vivoにおいて骨形成に関与する因子として作用することが近年報告されており,この因子の役割を明らかにすることでチタンと細胞接着およびその後の骨形成促進に寄与するものと考えられる。
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