研究概要 |
口腔扁平上皮癌の転移形成におけるマトリックスメタロプロテナーゼ(MMPs)の果たす役割を、われわれが最近開発したin vivo転移モデルを用いて検索するとともに、臨床材料を用いて実際の口腔扁平上皮癌組織の産生するMMPsについても検討し、これらの酵素と転移との関係について検討を行った。 まず、in vivo転移モデルを用いて転移能の異なるヒト口腔扁平上皮癌細胞株のOSC-19細胞とOSC-20細胞をヌードマウスの舌に移植し、舌腫瘍組織におけるMMPsの発現について免疫組織化学的および生化学的に検討した。その結果、頚部リンパ節に高率に転移するOSC-19細胞では、低転移性のOSC-20細胞と比較してゼラチナーゼ活性が高く、免疫染色およびゼラチンザイモグラムにおいてMMP-9(92kDa IV型コラゲナーゼ、ゼラチナーゼB)の発現が顕著に認められた。次に、口腔扁平上皮癌38例の初診時生検材料を用いてMMP-1,-2,-3,-9およびTIMP-1に対する免疫染色を行ったところ、癌細胞に陽性所見を示したのは、主としてMMP-1(70.0%)とMMP-9(45.7%)であり、MMP-2,MMP-3およびTIMP-1の発現率はそれぞれ21.1%、10.5%、22.2%と低かった。また、これらMMPsの陽性癌細胞率と頚部リンパ節転移との関係について検討したところ、MMP-QとMMP-9の陽性細胞率は転移を認めた群では非転移群に比較して有意に高値を示した。 以上の結果より、口腔扁平上皮癌の頚部リンパ節転移にはMMP-1とMMP-9が深く関与し、特にMMP-9が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。今後は、これらの結果をふまえて、さらに、これらの酵素のインヒビターを用いた転移抑制の可能性について研究を行っていく予定である。
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