骨芽細胞様MC3T3-E1細胞の分化誘導に伴う刺激応答機構の変化について検討を加えた。β-グリセロ2リン酸ナトリウム(β-glycero phosphate)とアスコルビン酸(ascorbic acid)で分化誘導を行うと、培養5日目まで急激なアルカリフォスファターゼ(alkalire phosphatase)の活性上昇がみられ、分化誘導が確認できた。一方、[3H]チミジン取り込みを指標としたDNA合成能は低下していた。分化誘導にサイクリックAMP(CAMP)の上昇が関与しているとの報告もみられるが、本研究ではCAMPレベルの上昇は認められず、我々の用いた分化誘導法ではCAMPの関与は少ないと考えられた。分化誘導した細胞ではプロスタグランジンF2α(PGF2α)刺激に対するイノシトールリン脂質特異性ホスホリパーゼC(PI-PLC)およびホスホリパーゼD(PLD)活性化は、コントロールの分化誘導をしない群に比べて低下していた。そこで、刺激応答の変化をシグナル分子のレベルでさらに詳細に検討したところ、分化誘導細胞ではPI-PLCB_1およびPI-PLCB_3アイソザイムが、ウエスタンブロッティング上著名に低下していた。一方、プロテインキナーゼC(PKC)アイソザイム、チロシンキナーゼ系、MAPキナーゼ系には著しい変化は認められなかった。PGF2αは未分化な骨芽細胞では増殖促進作用を示し、分化の進んだ細胞ではその機能を抑制することが報告されている。したがって、本研究で得られた結果は骨芽細胞様MC-3T3-E1細胞の分化過程において、PI-PLCおよびPLD活性化の低下が分化誘導の初期過程に深く関与していることを示唆している。
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