口腔癌発生に与える喫煙習慣の影響とタバコ中の化学発癌物質に対する個体側の発癌感受性の関与を明らかにするべく、これまでに以下の研究を行った。 1.当科を受診した口腔癌男性患者57名、女性患者28名の生活習慣調査を行った。喫煙率は63.5%で、原発部位別に検討すると、舌、上下歯肉や頬粘膜ではその平均生涯喫煙本数が113515〜204035本であったのに対し、口底癌においては370110本と統計学的にも有意に高く、口底癌発生が高度の喫煙習慣と関係している可能性が示された。 2.一方、口腔癌患者末梢白血病より調製したDNAを鋳型として、個々の所有するCytochrome P-450IAI構造遺伝子中に存在するイソロイシン/バリン(Ile/Val)多型を解析した。現在までに108名の解析を終了し、その分布はIle/Ile型が67名(62.0%)、Ile/Val型が34名(31.5%)、Val/Val型 7名(6.5%)と、これまで明らかにされている健康日本人の平均分布や胃癌、大腸癌患者などと比較すると芳香族炭化水素系化学発癌剤による発癌に高感受性といわれるVal/Val型のわずかに多かったが、肺癌患者における割合(12.3%)に比べると少なかった。しかし、Val型/Val型を有するすべての口腔癌患者は、生涯喫煙本数が肺癌における高危険率の分岐点といわれる292000本より少なく、本遺伝子型を有する個体が少量の化学発癌物質により発癌する発癌高感受性である可能性が示された。 現在、さらに原発部位ごとの遺伝子多型を解析中であり、さらにGlucose S-transferase(GSTl)遺伝子についてもその分布を調べており、喫煙習慣と口腔癌発生との関係、さらには高危険群の特定を行う予定である。
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