研究概要 |
口腔癌発生における個体側の発癌感受性と喫煙習慣の関係を明らかにするため、以下の実験を行った。 1.当科を受診した口腔扁平上皮癌90名(男性55名、女性35名)の末梢白血球から調製したDNAを鋳型としてPCRによりCYPIA1遺伝子のIIe/Val多型およびGST1遺伝子の欠損多型を解析した。その結果IIe/IIe型57名(60.0%)、IIe/Val型30名(33.3%)、Val/Val型6名(6.7%)で対照とした非口腔癌患者やこれまでに発表されている健常日本人の分布と比べるとVal/Val型が若干多い傾向にあったが、統計学的には有意ではなかった。 2.GST1遺伝子の欠損は口腔癌患者の43.3%に認められた。この数値は対照群と比較して明らかな差異を認めなかったが、CYPIA1遺伝子多型と併せて観察するとIIe/IIe型の37.0%、IIe/Val型の50.0%に対しVal/Val型では67.7%で欠損が観察された。 3.喫煙習慣との関係で検討すると、患者全体での喫煙率は60.0%、男性のみを対象とすると90.9%とそのほとんどで喫煙歴があった。発病までの生涯喫煙本数はIIe/IIe、IIe/Val型で非喫煙者を含んだ場合198,000本、177,000本、喫煙者のみを対象とした場合には290,000本、313,000本であった。これに対し、Val/Val型では、それぞれ120,000本、203,000本と前2者と比較して少ない傾向にあった。 以上をまとめると、口腔癌では肺癌患者に見られるように特徴的な遺伝子多型分布は観察されなかった。しかし、肺癌高危険度群といわれるVal/Val型が下歯肉癌患者の13.7%に観察され、その喫煙本数も他群と比べて少なかった。このことは、下歯肉癌においてはVal/Val型が低消費量の喫煙と関係した発癌高危険度群である可能性を示すとともに口腔癌においてはその部位により発癌に関与する因子、個体側の感受性に差異のあるものと考えられた。
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