歯科治療中には過換気症候群という病態が遭遇することがある。また全身麻酔中にも換気が過剰になり術後に意識障害などの合併症を経験することがある。これらは多くの場合には時間の経過とともに回復するが、時には冠動脈の痙攣から死に至ることが報告されている。この原因は過換気によって脳血流量が減少するためと解釈されている。しかし詳細な検討はされていないので脳血流量を測定し検討した。脳の部位別の血流量をカラード・マイクロスフェアを使用して測定した。過換気条件は動脈血中の炭酸ガス分圧を正常の半分以下にした。その後正常な炭酸ガス分圧にもどした。動物はウサギを使用した。脳は白質部分と灰白質部分にわけて測定した。その結果白質部分は正常時の24%減少した。一方灰白質は10%の減少にとどまった。これは脳血管が炭酸ガスの減少によって収縮するとの従来の結果に疑問を投げかけるものである。しかし局所脳血流量を測定するためには摘出組織が小さく測定可能なマイクロスフェア量にいたらず血流量が減少または増加している脳内の部位決定にはいたらなかった。これは脳血管が一律に過換気で収縮するを意味しない事をしめている。これらの結果は第22回日本歯科麻酔学会に発表した(平成6年10月7日札幌)。 また一酸化窒素の測定についてはその生産される量が微量なのか、測定電極の問題なのか測定に成功していない。今後原因を追求し改良を重ねる必要が出ている。特に測定電極のさらなる改良が必要と考えられる。しかし同じ測定機器を使用してラットの局所脳組織の乳酸量を測定できる実験系は現在進行中である。乳酸の測定は試薬や電極の改良で測定できる可能性がでてきている。血流の変化によって乳酸値も変化しうるので、間接的ではあるが血流変化の部位を究明できるものと期待し実験中である。なお一酸化窒素の測定は技術的に困難であるなら、培養細胞では可能であると考えられる。そこで血管の拡張、収縮については培養細胞条件に炭酸ガス分圧を変化させて一酸化窒素を測定し、この結果から局所脳血流量の変化を解明できるのではないかとと考えている。これは残された課題である。
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