口腔の小唾液腺腫瘍(多形性腺腫19例、粘表皮癌19例、腺様嚢胞癌17例)について癌遺伝子関連抗原(c-myc、ras p-21、c-rebB-2)EGF、EGF受容体(EGF-R)の発現を免疫組織染色学的に検出し、発現頻度、組織内の局在様式について検索した。また免疫組織学的に検索を行ったもののうち、保存状態の比較的良好な摘出標本(多形性腺腫13例、粘表皮癌11例、腺様嚢胞癌7例)を用い、PCR法によりc-myc、ras p-21、c-erbB-2について遺伝子の増幅を行い、その発現頻度、発現量について検索した。またこれらの所見と組織像、予後との関連について検討した。免疫組織学的検索では、多形性腺腫19例において明らかなc-mycの発現は57.9%、ras p-21は47.4%、c-erbB-2は0%、EGFは15.8%、EGF-Rは78.9%であった。同様に粘表皮癌19例では、c-mycは73.7%、ras p-21は21.1%、c-erbB-2は0%、EGFは10.5%、EGF-Rは84.2%であった。腺様嚢胞癌17例では、c-mycは82.4%、ras p-21、c-erbB-2はともに0%、EGFは5.9%、EGF-Rは0%であった。EGF-Rの発現は多形性腺腫、粘表皮癌で高率に認められた。またc-mycの発現は、いずれの組織型においてもほぼ60%以上に認められ、多形性腺腫、粘表皮癌、腺様嚢胞癌の順に、その頻度は増加し、特に腺様嚢胞癌では強陽性を示した。ras p-21は多形性腺腫の約半数に陽性を示したが、粘表皮癌では21.1%、腺様嚢胞癌では0%であった。PCR法によるc-myc、ras p-21、c-erbB-2についての検索の結果は、免疫組織学的検索の結果とほぼ同様な傾向が認められた。今回の検索の結果では悪性腫瘍においてe-myc、ras p-21、EGF-Rで組織像との関連が認められたが、予後との関連についてはこれまでのところ明らかな関連性は見い出していない。今後更に詳細な検討と、癌抑制遺伝子との関連、ras遺伝子の点突然変異の有無について検索する予定である。
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