顎関節症の発症機序に関しては、従来より実験的に咬合異常が引き起こされた際の顎関節および咀嚼筋における病理組織学的研究か数多く認められる。一方、顎関節は、咬合咀嚼時に加わる強力な圧を歯根膜と共に負担している。しかし、これらの圧の顎関節における力学的応答については不明な点が多く、さらに、顎関節症の発症機序をバイオメカニクスの観点から検索した報告は少ない。最近、私たちは、サルおよび新鮮ヒト遺体の内頭蓋底に三軸ストレインゲージを貼付し、下顎運動の経路および下顎位が変わる際の、顎関節下顎窩上壁の骨の力学的挙動について報告し、下顎運動の経路および下顎位が変わるにつれて、同部の骨は複雑に変形し、力学的に対応している事が判明した。しかし、下顎運動に伴う関節円板の緩衝圧すなわち顎関節腔内圧の変動については、Wick-catheter法によるブタの顎関節滑液圧を測定したRothらおよびWardらの報告があるのみである。そこで本研究では、ヒトを研究対象に、下顎運動および下顎位の変化に伴う顎関節腔内圧の変動をNeedle法で測定し、咬合咀嚼時の顎関節における緩衝のメカニズムの解明を目的から研究を行った。その結果、安静位から咬頭嵌合位に変化すると陽圧に、咬頭嵌合位が前突位に移行すると陰圧に、さらに最大開口位では最も陰圧に変化した知見が得られた。本結果は、ひずみゲージを使用して人為的下顎運動を行わせた時の下顎窩上壁の骨のひずみの変化と対応しており、関節円板が主体となり関節構成体全体によって顎関節に加わる負荷を緩衝していることが示唆された。
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