本研究では実験動物(ラット)の歯の形成時期に合わせて、種々の環境的障害因子を作用させ、臨床の遭遇するヒトのものと類似したエナメル質形成障害を発生させる実験系の確立と、その病態の解析を目標にした。 平成6年度研究で、ラットにHEBPを投与すると切歯形成端において、いわゆる形成不全型のエナメル質形成障害が発生した。エナメル質の形成はエナメル芽細胞からアメロゲニンを主成分とする蛋白性基質が分泌されることから始まる。そこで、このような形成障害ではアメロゲニンがどの様な動態を示すか、先ず遺伝子の解析を行った。その結果、形成不全部のエナメル芽細胞にmRNAの発現が確認され、この障害が遺伝子発現の異常によるものでないことが示唆された。 そこで、本年度は抗アメロゲニン抗体を用いた免疫組織化学によって、エナメル芽細胞が実際にアメロゲニン蛋白を合成しているか確認した。その結果、細胞内に抗体と反応する分泌顆粒状の構造物の存在が確認された。したがって、この障害ではアメロゲニンの合成は行われているものの、エナメル芽細胞はこれを分泌出来ないか、あるいは分泌されても会合して基質を作ることの出来ない異常な蛋白が合成されている可能性が考えられた。 本研究の結果、アメロゲニン遺伝子に異常がなくとも、後天的に加えられた障害因子によって形成不全型のエナメル質形成障害が発生することが確認された。本研究の結果はウイルス感染症などの既往歴のあるエナメル質減形成症の発生機序を考える上で多くの情報を提供するものであった。 本研究の目的の一つであるラット臼歯でのエナメル形成不全の発現に関する実験系の確立については、これまでの研究成果を応用しつつ、現在開発中である。
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