歯科矯正学的な歯の移動に伴い、それを支持する歯周組織は変化する。そのため、矯正治療における歯周組織の代謝や循環状態の変化の様相あるいは修復の過程を明らかにすることは、矯正治療によって動かされた歯あるいは咬合の安定を予測するためにも極めて重要なことと考える。そこで本年はアモルファス磁心マルチ型磁石変位センサを用いて計測した歯の脈動の一般的な解析方法を確立するとともに、歯の脈動の正常値を得ることを目的に研究を遂行した。 被験歯は健康な歯周組織を有すると思われる男女23名の中切歯である。計測は唇舌方向の脈動を唇面の3点で、歯軸方向のそれを切縁部で行った。記録波形の時間領域および周波数領域の解析から、以下の結果を得た。 (1)歯の唇舌方向の脈動の大きさは0.59μmと歯軸方向の0.88μmよりやや小さく、しかもその変動は小さかった。 (2)歯は心電図のR波に対して唇舌方向で0.12〜0.13sec、歯軸方向で0.11sec遅れて脈動していた。 (3)心電図のR波を基準に唇舌および歯軸方向の脈動を合成したところ、23被験歯中16歯は唇面の3部位ともに同じ方向に脈動しており、6歯は唇側切縁側へ、9歯は唇側根尖側へ、1歯は舌側切縁方向に脈動していた。しかし7歯は唇面3部位の脈動の方向が異なっており歯冠全体として一定方向の脈動は示さなかった。 (4)周波数分析の結果、高周波数帯ほどそのパワー値が減少するスペクトルと、その前後の周波数帯におけるより低いパワー値の認められるスペクトルの大きく分けて2種類のスペクトル分布が観察されたが、その両者の分布パターンは統計的に等価であった。
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