歯科矯正的に歯を移動すれば、歯を支持する歯周組織は変化する。そのため、矯正治療における歯周組織の代謝や循環状態の変化の様相あるいは修復の過程を明らかにすることは、矯正力の大きさの適否、矯正治療によって動かされた歯あるいは咬合の安定を予測するためにも極めて重要なことと考える。そこで本年は犬歯の遠心移動初期における歯の脈動をアモルファス磁心マルチ型磁石変位センサを用いて計測し、歯の脈動を通して観察される歯根膜の循環から至適矯正力の指標を得ることを目的に研究を遂行した。 隣接の第一小臼歯を抜去して1ヵ月を経過した上顎左側犬歯を被験歯とし、矯正用オープンコイルスプリングを用いて、およそ0、20、60、120gの遠心移動力を加えた。計測に際して、心電図、指先動脈圧、呼吸を同時記録した。 結果および考案:安静時には振幅、約0.15μmの血流に同期した振動を認めた。20gの牽引によってその振幅はわずかに増加し、圧平された歯根膜においてもなお血行の保たれていることが推察された。60gおよび120g牽引では、それぞれや約0.1μmおよび0.15μm以下とその振幅は減少し、血流が阻害されていると考えられた。この歯の微小振動の計測は、至適矯正力の指標となる可能性を示唆するものであり、今後、それぞれの歯に矯正力を加えた場合の歯根膜の循環動態に関する詳細な計測、分析を行う予定である。
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