顔面の成長発育に影響を及ぼす環境因子として、咀嚼筋機能が重要視されてきている。本研究は咀嚼筋群の中から下顎形態形成にに最も重要と考えられる咬筋に着目し、咬筋の付着部位ならびにサイズについて調査し、それらと咬合圧分布や顎顔面形態との関連性について調べた。さらに咬合圧が下顎体内部構造に及ぼす影響につてCT断層写真を用いて検討した。 1.咬筋付着部ならびに走行状態と顎顔面形態との関係について : 38項目の計測項目の中から、因子分析によって特徴点14項目を選出した。有歯顎群と無歯顎群について、線形判別分析を行った。その結果、判別率は有歯顎群で100%、無歯顎群で95%であった。この際判別に寄与した計測項目は、筋突起高と咬筋前方付着部の位置であった。このことから、咀嚼筋の機能はそれが付着する下顎技の形態に影響を及ぼすこと、また咬筋前方付着部の位置が機能の減退によって後退することが明らかになった。さらに、このような変化は機能的要因で生じ、年齢が及ぼす影響は見られなかった。 2.咬合圧分布と顎顔面形態との関係について : 研究資料として日本人成人男子正常咬合者19名の感圧フィルムおよび側貌頭部X線規格写真を用いた。感圧フィルムより得られた咬合面積、平均咬合圧および咬合圧の相関を求めると共に、顎顔面形態と咬合圧分布との関連性について正準相関分析を用いて検討した。その結果、咬合面積と咬合圧との間に正の相関が認められ、咬合面積が大きいほど咬合圧が大きくなることが認められた。平均咬合圧は咬合面積とは負の相関を示したものの、咬合力との間に相関は認められなかった。これについて、食生活が著しく異なる南太平洋住民メラネシア人(フィジ-人)について調べたところ、日本人に比べ咬合力は強く、咬合面積は有意に大きかった。学顔面形態と咬合力との相関を調べたところ、下顎切歯の傾斜度、symphysis angleおよびgonial angleと咬合力は負の相関を示した。 3.CT断層写真による下顎骨内部構造について : 咬合圧が下顎骨体にどのような影響を与えているかを推察する目的で、下顎骨体内部構造と顎顔面形態との関連性について検討した。計測した断面はsymphusis部(下顎正中部)、第2小臼歯部、第1大臼歯部および第2大臼歯部(以下SYR、P2R、M1R、M2R)の4断面とした。計測項目として、各断面の高さ、幅ならびに面積など、また内部構造の計測として皮質骨の厚さ、面積などを計測した。その結果、gonial angleと第2大臼歯部の頬・舌側皮質骨の厚さ、symphusis部と第2大臼歯部の高さに相関が認められた。また主成分分析の結果、頬側皮質骨の厚さの分布は多様であり、特に小臼歯部を境に前方と後方に分けられ、後方部は機能的影響を受けやすく、咬合力が強い者ほど厚いことが認められた。すなわち、咬筋の付着部がより前方位に位置するほどgonial angleやsymphysis angleは小さいが、下顎技のサイズは大きくなり、さらに下顎骨体部の皮質骨の厚さも厚く強固になることが認められた。
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