歯の硬組織の形成異常をひき起こす原因について、歯胚に何等かの障害因子が作用した結果、生ずるものであるといわれている。しかしながら、その発生機序については未だに不明な部分が多い。本研究では、小児歯科臨床で遭遇する種々の形成不全歯について、医科的既往ならびに歯科的既往の明確な患者からの被検歯を採取して、形態学的、組織学的に観察ならびに歯質の化学組成を分析するとともに、実験動物を使用して、どのような状況下でどうのような作用が及ぼされるとどのような形成異常が起こるを実証し、その発生過程を探求することによって、ヒトの歯の形成異常と共通する発生機序を解明することを目的とした研究である。 現在までの研究経過は次の通りであるが、(1)乳歯列から永久歯列への交換異常を示した症例について、カルシトニン分泌過剰(287pg/ml)が原因であることを実証した。抜去乳歯では歯根吸収窩や破歯細胞はみられず、骨様硬組織の肥厚が観察されたが、歯質のCaとPの比や量には異常は認められなかった。ついで、(2)歯の着色異常について仔ブタを使用して、テトラサイクリンの吸着様式を分光分析により検索した結果、テトラサイクリンの動態は有機質と一致しており、カルシウムイオンの存在とアルカリ性の環境下での蛍光の増強が示唆された。(3)歯の形態異常の一つである異常結節について、小臼歯部の中心結節の発現頻度と診断可能時期を検索した結果、前者は下顎第二小臼歯>下顎第一臼歯>上顎第二小臼歯>上顎第一小臼歯の順であった。後者はエックス線写真検査によって歯の萌出前でも確認可能であり、乳歯列期においても診断可能であった。
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