研究概要 |
本研究の目的は,矯正治療を希望する不正咬合患者において,顎関節症の症状と徴候を調べ,その発症に寄与していると考えられる因子について調査し,両者の関連について考察することである. まず,顎関節症の発症に寄与していると考えられる因子について,1)咬合・2)食生活習慣・3)全身的健康・4)性格特性・5)精神的ストレスの5因子について大きく分け,それぞれの因子の具体的な検査方法・項目を確立することから研究を始めた.1)咬合因子については,咬合形態として不正咬合を分類し,咬合接触状態としてブラックシリコンを用いて軽度噛みしめ時と強度噛みしめ時の顎位の微小変位を調べることとした.2)食生活習慣としては,食習慣の規則正しさ・嗜好品などを調べた.3)全身健康についてはCMI(Cornel Medical Index)から選択した質問項目により評価した.4)性格特性は,コンピューター化されたMINIで評価した.4)精神的ストレスに関しては,アンケート調査と因子分析により,若年者における精神的ストレス尺度を開発し,これをコンピューター化したものを用いた.これらの因子の評価得点と,顎関節症の症状と徴候,つまり,顎関節雑音・開口障害・筋痛についての関連を統計学的に調べた.その結果,いずれも因子とも有意な関連を見いだすことができなかった. この結果は以下のようなことを示唆していると考えられる.1)若年者の不正咬合患者においては,顎関節症を考える際,多因子的な配慮が必要である.2)特に形態面での特徴(咬合因子)との有意な関係がなかったことは,成長期であるゆえの適応性あるいは,不正咬合者ゆえの未成熟性を伺わせるものである.
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