シクロブタノン誘導体は天然物に限らず種々の生理活性化合物の重要な合成素子として古くから汎用されてきているが、その調製法はほとんどの場合適当に置換されたオレフィンへのケテン或いはその等価体の[2+2]環化反応によっている。また、光学活性シクロブタノン体の調整法も基本的にはこの[2+2]環化反応を用いる場合が多く、これに対して適当なキラル補助基、或いはキラル触媒によって不斉誘導を行っている。しかしながら本法では[2+2]環化反応の原料調製に多段階を要し、しかもその不斉収率も必ずしも常に満足のいくものではない。そこで著者はこれら従来法とは概念的にも全く異なるシクロプロピルアルコール誘導体の協奏的転位反応による光学活性シクロブタノン体の新しい合成法を開発するとともに本法の一般性を検討することを企画した。 そして平成6年度までにシクロプロピリデン体の効率的合成法を開発するとともに、本化合物への不斉エポキシ化並びに不斉ジヒドロ化反応の最適条件を見出し、好光学純度でシクロブタノン体を合成する方法を開発することが出来た。また、平成7年度にはシクロブタノン誘導体から、位置選択的環拡大及び閉環反応等により、A環に芳香環を持つトリコテカン型化合物を合成することに成功した。著者の開発した方法は種々のトリコテカン型化合物の合成に適用可能であり生理活性化合物の探索に有用な方法を提供するものと確信する。
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