研究概要 |
鎖状1,2-グリコール類と塩化オキサリルのトリエチルアミン存在下の反応は,モノエステルがいす型遷移状態を経て環状テトラヘドラル中間体を与え,立体電子効果によって炭素-炭素結合の開裂が促進されて環状炭酸ジエステルを生じ,中間体の環反転が容易な場合には環状シュウ酸ジエステルが生成する. 1.トランスシクロヘキサン1,2-ジオールは,上記の反応機構からは一方的に環状炭酸ジスエステルを与えると,予想されるのに,環状シュウ酸ジエステルのみが生成した.いす型遷移状態を経る場合には,橋頭位の水素原子とカルボニル酸素との間の立体障害が大きくなることが原因であろう.他の環状1,2-グリコールについては,鎖状1,2-グリコールの反応から予想される結果を得た. 2.ピナコールやトレオ型1,2-グリコールの環状シュウ酸ジエステルを,塩基をピリジンに代えることによって初めて入手し得た.エリトロ型1,2グリコールから大量のポリマーが副生する問題は,2,4,6-コリジンを用いることによって解決された.塩化オキサリルの代わりにイミダゾリドを用いればよいことも判明した. 3.環状シュウ酸ジエステル13種のpH7付近の加水分解はピナコールからのものを除き瞬時に進行し,シュウ酸モノエステルを与えた.pH5付近では,ピナコールからの環状シュウ酸ジエステルはシュウ酸ジエステルの第1段階の加水分解と同等の速度で加水分解されるのに対して,他のものは200-1000倍の加水分解速度を示した.異常な分解速度にもかかわらず,反応機構的には通常のエステルの加水分解と変わらず,アシル-酸素間の結合の開裂が起こっていることが分かった.X-線結晶解析及び半経験的分子軌道法による計算結果から推定される環状シュウ酸ジエステルの構造はピナコールからの環状シュウ酸ジエステルの例外的な安定性を説明し得るものであった.
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