研究概要 |
硫酸化チロシン含有ペプチドの簡便な合成法を開発することは,合成化学的にも,蛋白質中のチロシン硫酸化の意義・機能を解明する上でも重要である。平成6年度から2年間にわたり,硫酸化チロシン含有ペプチドの合成に関して本課題研究を行ったが,研究期間途中(平成6年12月)で大学を移動したため,十分な研究成果を挙げ得たとはいいがたいが,以下に平成7年度に行った研究の概要をまとめる。 1.私達は,Fmoc-Tyr(SO_3Na)-OHを合成ユニットに用いて硫酸化ペプチドを合成する場合に,硫酸化チロシンの分解を最小限に抑制できる最終酸脱保護条件を見いだしている[Kitagawa et al.,Chem. Pharm. Bull.,41,376(1993)]。しかし,このアプローチでは樹脂からのペプチドの遊離が不完全なため,目的ペプチドが低収率でしか得られないという課題が残った。そこで,極めて酸に鋭敏な2-クロルトリチル樹脂をCCKおよびガストリン関連ペプチドの合成に適用することを検討したところ、上記の問題点を解決することができた。この方法は,簡便で,かつ極めて効率的に硫酸化チロシン含有ペプチドを直接固相合成できる方法であり,今後に展開できる。 2."safety-catch"型保護基を活用して固相合成した保護フラグメントを用いて,固相上でのフラグメント縮合でビッグガストリンに相当する34-ペプチドを構築し,この保護ペプチド樹脂からビッグガストリン-II(硫酸化体)への鍵中間体であるMsib/Msz基で部分的に保護されたペプチドを得た.この鍵中間体からのガストリン-II(硫酸化体)への誘導を検討した。現在,反応条件の最適化とスケールアップを検討中である。 3.硫酸化チロシン含有ペプチドのマススペクトルに関しては,現在でも情報が不足している。私達の合成してきた硫酸化ペプチドについて,新しいイオン化法やイオン検出法でマススペクトルの測定を行い,(i)constantneutral-loss scanningの手法により,ペプチド混合物から硫酸化ペプチドを選択的に検出できること,(ii)複数個の硫酸化チロシンを含むペプチドの特徴的なフラグメンテーション,を明らかにした。こうした新知見は,今後,合成硫酸化ペプチドの構造確認や,天然硫酸化蛋白質の構造解析に有用である。
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