本課題は、トリプシン様酵素(スロンビン、プラスミン、ウロキナーゼなど)に特異的に作用する物質をデザインし、臨床上有用な生理活性物の開発のための基礎的知見を得ることを目的とした研究である。これまでトリプシン阻害剤としてデザインした芳香族アミジン誘導体での実績をもとに、アミジン基をもつサリチルアルデヒドをターゲットにそのシッフ塩基錯体について多種の阻害剤候補を調製し、その酵素阻害効果の測定、構造-活性相関の追及を行なった。 平成6年度では主として合成研究を行い、(1)α-アミノ酸とシッフ塩基および錯体を作る鍵化合物であるアツデヒド誘導体の合成、(2)目的とするシッフ塩基および錯体の調製、性質、分析でそれぞれ成果を得、報告した。この成果をもとに、7年度はその合成標品であるシッフ塩基銅錯体の活性物質としての検定を集中的に行った。トリプシン阻害剤としての活性測定を行った結果、極めて強い阻害効果を持つことを明らかにした。その内の数種は、低分子トリプシン阻害剤物質として既報の最強物質の値を上回る阻害活性が示され、特異的阻害剤としての記録を更新させた。導入置換基の種類、置換位置、光学異性、などを変えた多数の化合物群を調製し、阻害剤の構造と活性の相関を進めた。さらにトリプシン類縁酵素での結果を含めてデータを蓄積しつつある。平成7年度の成果は取りあえず2編の論文として印刷中であるが、更にスロンビン阻害での結果の取りまとめを近日中に予定している。 本研究は、トリプシン基質、阻害剤として極めて特異的なアミジノフェニル誘導体に着目し、且つ錯体形成反応の利用というユニークな立場からの研究であり、それ故、貴重な多くの知見を含む成果と評価している。
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