研究概要 |
ヨウ化サマリウムは炭素-炭素結合形成反応やα-アルコキシカルボニル化合物の脱酸素官能基化反応など種々の興味ある反応を引き起こす有用な試薬であるが、これまで炭素-炭素結合開裂反応にはあまり利用されていなかった。我々はこれまでにモノテルペンであるカルボンをキラル源として用い、数行程を経て対応する5員環γ-ハロエステルへ変換し、ヨウ化サマリウムと反応させることにより目的とした炭素-炭素結合開裂化合物(開環化合物)を高収率で得ている。ここで得られた鎖状の生成物は原料の立体化学を保持し、さらに種々の異なる官能基を有しているため化学修飾の多様さという点からも天然物合成における有用な素子と考えられる。そこで本化合物を用いてnuparamine,anhydronupharamine,nuphenine,及び3-epi-nupharamine等のヌファーピペリジンアルカロイドの合成を行った。これらアルカロイドは古くから民間薬として用いられていたが未だに完全に立体化学を制御した光学活性合成は知られていない。今回のヨウ化サマリウムによる開裂反応を基盤とした合成は、用いた原料の全ての炭素原子を目的物に効率的に組み込んでおり、その結果として合成過程を極めて簡略化することができ、かつ立体化学も完全に制御することができる。また原料のカルボンは両対象体の入手が容易であるため、天然物の両エナンチオマーの合成も可能であるという利点を有している。 さらに本反応及び生成物の天然物合成における応用性を広げるため、先に得られた開裂化合物を原料としてピロリチジンアルカロイドであるheliotridaneの合成を行った。すなわち、開裂体より容易に変換可能なγ-ラクトンを対応するラクタムとし、次いで側鎖部のオレフィンを化学修飾して閉館することにより二環性化合物とし、目的とする化合物の合成を達成することができた。本反応の応用によりpseudo-heliotridaneの合成も行った。
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