研究概要 |
含窒素六員環構造は多くの生理活性物質に含まれる共通構造である。この様な環構造の合成に最も直截的なアプローチは1-アザ-1.3-ブタジエン(以下、1-アザジエン)とオレフィン類とのDiels-Alder反応と考えられる。ところが従来1-アザジエンそのものとジエノフィルとのDiels-Alder反応は困難なものとされていた。この理由の一つとして1-アザジエン自身がイミン部分の加水分解等により比較的不安定であることが挙げられていた。申請者はこの問題点を考慮し、昨年度、新しい1-アザジエン系として2-ビニルアゾール類であるベンジリデン(シアノ)メチル-1,3-ベンゾチアゾール(1)をデザインした。このジエンはイミン部分が芳香環に組み込まれているため、ジエンの化学的安定性を持ち、3-位シアノ基により求電子活性をも合わせ持っている。 本年度は1のフェニル基をエステル基に置き換えたジエン、エチル(E)-3-(1,3-ベンゾチアゾール-2-イル)-3-シアノプロペノアート(2)を開発した。2の反応活性は著しく高まり、これまで報告されている1-アザジエンのなかで最も反応活性が高いといえる。実際に2はビニルエーテル類やp-メトキシスチレン類などと室温から50度程度でendo選択的に反応し、Diels-Alder環化付加体を位置および立体選択的に与える。また、アリルアルコール類を用いると連続的な反応手法に応用できる。すなわち、アリルアルコールと2とをエステル交換の触媒である1,1,3,3-テトラ-n-ブチル-1,3-ジイソシアナ-トスタノキサン存在下で反応させると、まずエステル交換、次いで分子内Diels-Alder反応が進行して、対応する分子内環化付加体が単一の立体異性体として得られることも明らかにした。
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