研究概要 |
E,E-ジエニルメチルケトン鉄カルボニル錯体と求核剤との縮合反応を検討し、新たに形成される二重結合の立体選択性について明らかにした。求核剤として、リチウムアセトニトリルを用いると、付加に続き脱水が起こりE-体のみを選択的に与えた。一方、エチルリチウムアセテートの反応ではただ一種の付加体のみを与え、続くチオニルクロリドによる脱水反応を検討したところE-体、Z-体の両成績体を与えるが、いずれの場合もZ-体を優先的に与える事が判明した(Z-体:E-体=2-6:1)。又、E-体、Z-体の比率は鉄カルボニル錯体のジエン上の置換基によって大きく影響される事が明らかになった。このZ-体を優先的に与える反応機構については、確証を得ていないもののエステルと鉄カルボニルとのキレートした反応中間体からのsyn脱離によって進行していると思われる。 次にこの結果を、β-イオノンの鉄カルボニル錯体に応用し立体選択的なレチノイドの合成をおこなった。即ち、リチウムアセトニトリルとの反応から9E-β-イオニリデンアセトニトリル体を立体選択的に合成後、DIBAL還元により9E-β-イオニリデンアセトアルデヒド体とした。また、エチルリチウムアセテートの付加体からの脱水により得た、9Z-β-イオニリデン酢酸エステルの還元、酸化を経て9Z-β-イオニリデンアセトアルデヒド体を選択的に合成することができた。更に、これらのアルデヒド体を対応するレチノイン酸へと収率良く誘導することができた。 以上、E,E-ジエニルメチルケトン鉄カルボニル錯体へのアセトニトリルの反応により三置換ポリオレフィンのうちのE-体を100%の選択性で、Z-体については、ジエン上の置換基によってその比率が影響されるものの酢酸エチルの付加体からの脱水反応により優先的に合成する方法を確立する事ができた。
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