薬物投与部位としての口腔粘膜に対する基礎的知見を得ることを目的として本研究を行った。ハムスター頬袋を用いて、角質化口腔粘膜の薬物透過障壁能の評価を行い、透過性は薬物の親油性のみならず分子サイズによっても制御されることを明らかにした。また、角質層剥離により特に低親油性薬物の透過性が増大すること、口腔粘膜から剥離した角質層シートが口腔粘膜全厚と同様の障壁能を示すことから、角質化口腔粘膜の透過障壁は角質層であることを明らかにした。口腔内部位差についても、透過性は角質層の厚さに反比例することを明らかにし、角質層の薬物透過障壁としての機能が裏づけられた。 次に、角質化口腔粘膜から角質層脂質抽出を除去したところ、低親油性薬物の透過性が増大し、角質層細胞間隙脂質が透過障壁の本体であることを明らかにした。さらに、薬物の角質層透過経路について、経細胞経路、細胞間隙水相経路、細胞間隙脂質相経路の3種類を考慮して解析した結果、細胞間隙脂質相経路のみを考慮すれば良いという結論に達した。そこで、角質層脂質のモデル脂質混合物をグラスフィルターに塗布して作成した膜を用いて、薬物透過性を検討し、この膜が口腔粘膜角質層のモデルとして使用できること、吸収促進剤のスクリーニングに使用できることを示唆する結果を得た。 口腔粘膜にも特殊輸送機構が存在することが、D-グルコースについて、ヒト口腔全体によるバッカル吸収試験により見出されているが、その存在部位など詳細については未解明であった。本研究では、ヒト口腔の各部位に適用可能な環流セルを考案・作成して検討を行い、D-グルコースに対する特殊輸送系が舌背に存在することを明らかにした。このセルは受動輸送による吸収の部位差についても解析可能な極めて有用なものであることがわかった。
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