経口投与された薬物が、胃・小腸を通過している間に消化管上部で吸収されることなく大腸に到達して薬理作用を発揮させたい場合がある。本研究では、胃・小腸に比べて大腸には、常在性細菌が多いという点に着目し、腸内細菌による代謝を利用した大腸への選択的薬物送達のためのプロドラッグの開発を目的とした。腸内細菌は、種類も数も多く、酵素の種類も多彩で活性も高いことが知られている。腸内細菌による代謝を利用したユニークなプロドラッグの開発は、生体が本来保持している機能を巧みに利用した新しい薬物送達法であると考えている。本研究では、モデル薬物としてサリチル酸を選び、プロドラッグとしてサリチル酸のアルギニン抱合体を新たに合成し、以下の知見を得た。 1.これまでに報告したサリチル酸のアミノ酸抱合体と異なり、サリチル酸のアルギニン抱合体を家兎に静脈内投与すると、サリチル酸の生成がみられ、全身循環系で代謝されることが明らかとなった。 2.サリチル酸のアルギニン抱合体を経口投与・盲腸内投与・直腸投与後、血中にサリチル酸の出現がみられ、特に経口投与後、サリチル酸の血中濃度は、長時間持続する傾向が認められた。 3.抗生物質で経口前処理した家兎にサリチル酸のアルギニン抱合体を盲腸内投与したところ、サリチル酸の生成は、著しく減少した。 これらの結果より、サリチル酸のアルギニン抱合体からのサリチル酸の生成には、腸内細菌の関与が示唆された。サリチル酸のアルギニン抱合体を経口投与後、大腸粘膜中のサリチル酸の濃度を未だ測定してはいないが、プロドラッグが腸内細菌により代謝されることから考えて、大腸への薬物の選択的送達の可能性が示唆された。
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