二ヶ年にわたりカチオン性リポソームをキャリアーとするアンチセンスオリゴヌクレオチドの細胞への効率的導入とその活性の促進を目指し研究を進めてきた。初年度はHeLaS3細胞にCAT遺伝子をトランスフェクションしたCAT発現細胞を用いた。アンチセンスは、mRNAのタンパク合成開始点から下流域の塩基配列に相補的な15merのフォスフォジエステル結合を持つオリゴヌクレオチドを合成した。このオリゴヌクレオチドをカチオン性コレステロール誘導体を含むリポソームと共にCAT発現HeLaS3細胞に加え、アンチセンス効果を調べた。アンチセンス及びセンスとリポソームを加えた細胞に較べ、遺伝子発現は約3倍抑制された。このことから、コレステロールアミン誘導体を含むリポソームは、アンチセンスの細胞内導入のための高効率、低毒性の優れたキャリアーであることが判った。また、共焦点レーザー顕微鏡でアンチセンスの取り込み過程を観察し、細胞とのインキュベーション約1、2時間後、アンチセンス/リポソーム複合体は細胞内へ取り込まれ、約3時間後、細胞核内に輸送されることが判った。次年度では、内在性の遺伝子の発現に対しアンチセンス/リポソーム系がどのような影響を及ぼすかを調べた。細胞として炎症性サイトカインであるインターロイキン6(IL6)を分泌するA375-6細胞にアンチセンス/リポソームを加え、IL6産生に及ぼす影響を調べた。アンチセンス効果と共にリポソームによると思われる結果も見出され、細胞の種類によってはアンチセンスやリポソームなどの外界からの刺激が、細胞の情報伝達系や遺伝子発現系に種々の影響を及ぼすことが示唆された。これまで得た結果は、アンチセンス効果の評価は、単一の一般性を付与した細胞だけでなく、標的とする組織、臓器の細胞について、細胞内の発現系、代謝系など総合的な影響を評価しながら検討する必要があることを示唆している。
|