研究概要 |
交感神経β-受容体遮断薬プロプラノロール(PL)をヒトに連続投与すると、肝薬物代謝酵素が阻害される。PL自身はシトクロムP450(P450)により芳香環4、5、7位水酸化及び側鎖N脱イソプロピル化反応を受け、このうち芳香環水酸化反応には遺伝的多型を示すCYP2D酵素が関与する。阻害機構を解明するために、ラットにPL連続投与したところ、特異的にCYP2D酵素活性が阻害される事を見いだした。この阻害作用はラット肝ミクロゾーム(Ms)を用いたin vitro系でも起こり、NADPH存在下PLとMsと反応させることによりCYP2D酵素活性の顕著な阻害が観察された。興味深い事にCYP2D酵素によるPLの主要代謝物4位水酸化体(4-hydroxypropranolol,4-OH-PL)との反応で、CYP2D酵素活性はさらに強く阻害されることも明らかになった。Msとのインキュベートにより4-OH-PLは反応系から急速に消失する。この消失反応はNADPHに依存的であり、アスコルビン酸や105000xg上清(Cs)の添加で顕著に阻害された。Csを水に対して透析したり、60℃で30分加熱しても阻害効果に影響はなかった。しかし、Csと共にシアン化カリウムを反応系に添加すると、Csの阻害効果は消失した。これらの結果より、ラット肝Msによる4-OH-PL消失反応に対するCsの阻害作用にはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)の関与が示唆された。そこでラット肝細胞質から硫安分画、CMセルロースによる陽イオン交換クロマトグラフィー、セファデックスG-100によるゲル濾過によりCu,Zn-SODを高度に精製した。Msによる4-OH-PL消失反応に対するこの精製標品の添加効果を検討したところ、Csの同様の結果を示した。即ち4-OH-PL消失がSODにより抑制されることから、ラット肝Msによる4-OH-PL消失にはスーパーオキシド(SO)の関与が考えられた。そこでSO生成系であるキサンチン-キサンチンオキシダーゼ系に4-OH-PLを添加し反応させ、生成した代謝物をTLC、HPLC及びGC/MSで検索した。結果4-OH-PLの主要な代謝物として1,4-ナフトキノン(1,4-NQ)の生成することが確認された。以上の結果より、CYP2D酵素によりPLから生成した4-OH-PLは、P450あるいはNADPH-P450還元酵素由来のSOにより1,4-NQに変換され、これがCYP2D酵素蛋白に共有結合することにより、CYP2D酵素活性が阻害されると考えられる。
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