乳酸菌と腸管との特異的な相互作用を明らかにするために、糖結合タンパク質であるレクチンに着目し、この発現の違いによって腸管内での住み分けを説明できないか否かを検討した。用いた菌はヒト成人の腸に広に存在するB.adolescentis Ba56株で、ヒト正常大腸由来硫酸化ムチン、ヒトミルクムチン、ヒヒ大腸癌細胞由来ムチンである。Ba56は正常大腸由来の硫酸化ムチンに最も強く親和性を示し、その結合はガラクトース、ラスクトースによって阻害された。また菌体表層タンパク質画分よりラクトースを同定化したアフィニティカラムを用いて44kDaと30kDaの2種類の糖結合性のタンパク質を単離した。このカラムに吸着した画分は菌体そのものと同様に、硫酸化ムチンを持つLS174T細胞に特異的に結合したことから、Ba56菌体56と硫酸化ムチンとの結合はこれらのタンパク質を介した結合であると結論された。次にこれらの44kDa、30kDaのレクチン分子がムチンのどのような糖鎖構造に結合するのかを検討するために、ムチンあるいはムチンを発現しているLS174T細胞の糖鎖を修飾しその結合を調べた。LS174T細胞をbenzyl-GalNAc処理すると、ムチン上の糖鎖の伸長反応が阻害されるが、この処理によりレクチン分子の結合は低下した。また硫酸化ムチン上の硫酸化糖鎖に対するモノクローナル抗体919Hを予じめ加えることにより阻害された。これらの結果から、レクチンの結合する相手は、MUC2上に存在する硫酸化糖鎖そのものであることがわかった。44kDaのレクチン分子を大量に精製後、リジルエンドペプチダーゼ消化し、切れたペプチドフラグメントを逆相HPLCにより単離した。さらにこれらの部分アミノ酸配列を決定したところ、既知のタンパク質との相同性は認められなかった。
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