動物臓器のリン脂質、特にホスファチジルコリン(PC)、の分子種組成について、その保持機構の代謝生化学的な解析と外的因子による介入の可能性を検討し下記の成果を得た。 (1)外的介入因子として用いたクロフィブリン酸はラット肝臓のPCの de novo 合成系を亢進することによってPC含量を、また、ホスファチジルエタノールアミン(PE)生合成の副経路(PC→ホスファチジリセリン→PE経路)を亢進することによってPE含量を増加させる。クロフィブリン酸による肝臓のリン脂質代謝の変動はPCの分子種組成の著しい改変を引き起こしたが、これはPCの de nove 合成に供給されるジアシルグリセロール分子種の変化、PCおよびPEの再アシル化系の亢進、PEN-メチル化系の抑制が相互に関連しあって生じた結果である。 (2)腎臓は肝臓や血液のリン脂質にはほとんど認められないジパルミチルPCを de nove 合成し、多量に含むというリン脂質分子種の臓器独自性を有しているが、一方、(3)に記載したように、リン脂質分子種組成の血液依存性の高い臓器でもある。 (3)肝臓で生じたPC分子種組成の変化が血液を介して末梢臓器にどの程度波及するかを、クロフィブリン酸投与、無脂肪食投与、糖尿病誘発ラットの脳、膵臓、腎臓のPCについて調べた。脳のPCの分子種組成はきわめて厳密に保持されており、まったく変動しない。腎臓のPC分子種組成は血液のリン脂質分子種組成に強く依存しており、膵臓は脳と腎臓の中間的な臓器である。 本研究の結果は多くの末梢臓器のリン脂質の分子種組成は外的因子((クロフィブリン酸や食餌の脂肪酸)によって介入が可能であることを示唆している。
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