ビタミンDレセプター(VDR)は核内レセプター・スーパーファミリーに属するリガンド依存性の転写制御因子の一つである。ビタミンDの作用発現は、主にその活性化体がVDRへ結合することにより起こるため、VDRの構造と機能を調べることはビタミンDの作用を考える上で重要である。そこで本研究では、大腸菌で発現させた種々のVDR変異体を用いて、機能ドメインの同定と性質の解析を行った。さらに、こうして得られた情報を基にラットゲノムよりビタミンDによって発現誘導される新規な遺伝子の探索を行い、以下の事を明らかにした。 1.VDRのDNA結合ドメインについて検討したところ、特異的なDNA配列を識別して結合するために必要な領域はアミノ酸23番目から123番目までの領域であった。また、VDRはレチノイドXレセプター(RXR)の共存によりDNAへの親和性が飛躍的に上昇した。 2.VDRがリガンドに結合するためには、アミノ酸124番目からC末端までの比較的広い領域が必要であり、この領域だけで活性型ビタミンDに特異的に結合し、他のビタミンD代謝体やステロイドに全く結合性を示さなかった。 3.VDRのダイマー形成には、複数の領域が関与しており、それぞれの領域の機能は異なっていた。さらに、ホモ・ダイマーとヘテロ・ダイマーを形成するために必要な領域はそれぞれ異なっており、C末端側のリガンド結合ドメイン内にはリガンド依存的なダイマー形成領域が存在した。 4.大腸菌により発現させたVDRとRXRを用いて、ラットゲノム上よりこれらのレセプターに結合するDNA断片を単離した。これらの断片についてVDREとしての機能を調べたところ、リガンド依存的に転写を活性化するものとリガンド依存的に転写を抑制するものを得た。これらの遺伝子断片の塩基配列を決定したところ、既知の配列との相同性はみられず、新規の遺伝子と考えられた。 5.本研究により、VDRの機能ドメインとして、DNA結合、リガンド結合、ダイマー形成ドメインが同定された。これらのドメインは、それぞれ独立して機能を発揮することが可能であった。しかしながら、VDRがリガンド依存性の転写調節因子であることを考えると、それらのドメインはVDR全体の中ではリガンドの存在の有無によって制御されていると推察される。また、新たなビタミンDの作用を発見することを目的に、ビタミンDによって誘導される遺伝子の検索を行った。ビタミンDによる遺伝子発現には必ず、VDRが関与しているので、逆にVDRが統合するDNAを単離し、そこから遺伝子産物を同定するという手法を用いた。その結果、ビタミンDによって発現が制御される新規な遺伝子を二つ単離することに成功した。これらの遺伝子産物の機能は未だ不明であるが、今後、これらの因子を解析することにより、新しいビタミンDの作用を見い出すことが可能であると考えられる。
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