光合成バクテリアRhodobactor sphaeroides(R. sphaeroides)シトクロムb-c^1複合体(複合体III)中の1つのサブユニットであるサブユニットIVをコードした遺伝子(fbcQ)を含むゲノムDNA断片を出発材料とし、遺伝子操作技術によりfbcQを欠損し、かつ、カナマイシン耐性遺伝子(KnR)で置換したR. sphaeroides変異株を作製した。得られた変異株の生育条件及びサブユニットIV欠損複合体IIIの性状について検討した結果、以下の知見を得た。R. sphaeroides野生株は好気的遮光条件及び嫌気的光合成条件のいずれにおいても生育するが、変異株は好気的遮光条件下でのみ野生株と同等の生育速度を示した。嫌気的光合成条件下において変異株は約3日間の生育静止期間の後、増殖を開始したが、生育即速度は野生株に比べて劣っていた。このことは、アンチマイシンA存在下に野生株を嫌気的光合成条件下に培養した場合の生育挙動に類似していた。また、嫌気的光合成条件下で増殖した変異株におけるサブユニットIVの発現をサブユニットIV抗体を用いたウエスタンブロットにより調べたところ、その発現は認められなかった。しかしながら、野生株と変異株について好気的遮光条件及び嫌気的光合成条件下のいずれにおいてもシトクロムとc_1の可視スペクトル形状や含量には変化が認められなかった。好気的遮光条件下で増殖した野生株及び嫌気的光合成条件下で生育した変異株からそれぞれ複合体IIIを部分精製し、サブユニットIV抗体を用いたウエスタンブロットによりサブユニットIV欠損の有無を確認したところ、いずれにおいてもサブユニットIVの存在は認められなかった。また、この部分精製したサブユニットIV欠損複合体IIIのubiquinone-cytochrome creductase活性とcoenzymeQに対するKm値を測定した結果、野生株より得られた4サブユニット複合体IIIに比べて比活性の減少とKm値の増大が認められた。
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