研究概要 |
本研究の目的は、虹彩散瞳筋においてムスカリン受容体刺激で生じる弛緩の機構を分子薬理学的に解明することである。まず、弛緩に関連する受容体が、既に報告されている5種類のムスカリン受容体のどれに該当するかを薬理学的に検討した。その結果M3かその亜型のムスカリン受容体を介することが示唆された。また、その受容体活性化から弛緩反応までの情報伝達系に百日咳毒素感受性のGTP結合蛋白質が関与していることが明らかとなった。さらに、ムスカリン受容体のサブタイプの同定を遺伝子のレベルで検討した。m2、m3受容体の翻訳領域を完全に含むようにPCRプライマーを各々デザインし、RT-PCR法に従いラット眼球RNAから目的とするPCR産物を得た。m2受容体については約1,400塩基対、m3受容体については約1,800塩基対のPCR産物であった。これらの産物は、大腸菌ベクターに組み込み、遺伝子配列を決定した。ラット眼球m2受容体については、ラット心臓由来m2受容体と比較して9個のアミノ酸が異なり、それらの多くがGTP結合蛋白質との連関に重要な細胞内第3ループに存在した。また、ラット眼球m3受容体については、ラット脳m3受容体と比較して4個のアミノ酸が異なり、細胞内第2、第3ループに存在した。さらに、細胞内第3ループをターゲットとしたRT-PCRにおいて、ラット虹彩周辺の組織にm2、m3受容体遺伝子が豊富に発現していることが明らかになった。一方、特異的なコリン取り込み抑制薬であるAF64Aをラット前眼房に微量注入することにより、ムスカリン受容体刺激による弛緩が消失することを見いだし、その機構を薬理学的に検討した。その結果、散瞳筋がもつ静止張力や、ノルエピネフリンやセロトニンによる収縮には優位な影響を与えず、この弛緩だけを消失させることが明らかとなった。 現在、眼球m2、m3受容体を培養細胞に発現させ、薬理学的・免疫学的手法により薬物結合実験・セカンドメッセンジャーの定量・共役するGTP結合蛋白質の同定・組織分布等を考察しているところである。また、AF64A処理後に虹彩筋においてムスカリン受容体mRNAレベルに変化があるかどうかなどを検討中である。
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