研究概要 |
トロンボモジュリン(TM)は血管内皮細胞膜上に発現する抗血栓性タンパク質である。TMの発現はレチノイン酸(RA)処理により転写の促進を介して増加する。本年度は、TMの上流1700bpまでクローニングしたcDNAを発現プラスミドに構築し、昨年度に推測されたRA依存性の転写調節にかかわる塩基配列と比較しながらヒト膵癌細胞(BxPC)を用いた発現実験を行なった。また、RA応答配列と核内関連タンパク質との結合実験およびその核内タンパク質の発現について検討した。 平成7年度の研究業績は以下にまとめられる。 1.TM遺伝子上流にはRA処理後の応答に関与する遠位と近位の2つの領域が存在する。 2.転写開始点から約1500bp上流に存在する遠位領域には典型的なRA応答配列(DR4)が、また約200bp上流に存在する近位領域にはSp1結合配列が存在する。 3.両領域を含む発現プラスミドはRA処理により転写活性に対して相加的に作用し、それぞれの欠失によって転写活性は低下する。 4.RA処理により細胞内のRAレセプターのサブタイプ(RAR-α, RAR-β, RAR-γ, RXR-α)のmRNAレベルに変動が認められるが、各RAレセプターを細胞内に発現させても遠位および近位RA関連配列に対するRA依存性の転写促進作用は認められない。 5.細胞へのRA処理後にSp1、SPR-1とSPR-2のmRNA量は経時的に増加する。 6.核内転写因子のSp1は近位RA応答配列に結合するが、そこからSp1配列を除去したcDNAとは結合せず、またAP1はSp1部分に結合しない。 以上により、TM遺伝子上流の遠位領域と近位領域には2つの異なるRA応答配列が存在し、それぞれRAレセプターとSp1関連転写因子という別々の核内タンパク質の発現調節を介してTMの転写促進作用に関与していることが明らかになった。
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