従来の動物細胞における蛋白質のリン酸化脱リン酸化の研究において見過ごされてきた、蛋白質ヒスチジン残基のリン酸化反応をラット肝臓中に見出し、その生理的役割の手がかりを得るために、その特異的阻害剤の検索を行っている。 平成6年度は、阻害剤検索のための条件の検討を中心とし、確定した条件で、合成有機化合物および微生物の産生する物質について、阻害活性の定量化を試みた。 検索のための基礎条件として、(1)用いる酵素画分の調製、(2)反応条件、(3)阻害活性の定量化、の検討を行った。まず、ラット肝臓よりヒスチジンリン酸化酵素を部分精製し、この酵素活性が、今までに知られているリン酸化酵素阻害剤ではほとんど阻害されないことを確認した。実際のスクリーニングにあたっては、目的のリン酸化酵素特異的な阻害剤を得ることを目標としているため、測定に用いる画分には、脱リン酸化活性をほとんど含まず、他のセリンスレオニンまたはチロシンリン酸化活性を含む画分を、内部標準として加えることとした。反応生成物をゲル電気泳動で分離し、目的の蛋白質に取り込まれた放射性リンの量をイメージアナライザーで定量する方法が、煩雑ではあるが、もっとも再現性と定量性に優れていると判断した。 つぎに、実際のスクリーニングを試みた。試料には、当学部薬品製造学教室で有機合成された新規インドール誘導体約30種類を、まず用いてみた。濃度一点のスクリーニングならば、一日で結果が得られ、濃度を変化させて確認するのを含めても、30種類の化合物を二三日で検索し終わることが確認できた。ただし、検索した化合物の中には、高濃度で、いずれの酵素活性も阻害し非特異的に作用すると思われる化合物は見出されたが、ヒスチジンリン酸化酵素を特異的に阻害するものはなかった。現在、微生物学教室の協力を得て、放線菌の産生する化合物の中に、阻害活性を示すものがないか検討を始めている。
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