動物細胞における蛋白質のリン酸化脱リン酸化に関する従来までの研究は、セリン、スレオニン、チロシン残基の水酸基におけるエステル結合とその加水分解に限られていた。ヒスチジンなどの塩基性アミノ酸残基のリン酸アミド結合の存在自体は報告されていたものの、その酵素化学的解析は皆無であった。 我々はラット肝臓中に、蛋白質ヒスチジン残基をリン酸化する酵素活性を、ペルオキシソーム増殖薬の作用により上昇する蛋白質リン酸化酵素活性として検出した。この新たに見出した蛋白質ヒスチジンリン酸化酵素の生理的役割、中でもペルオキシソーム増殖薬の作用との関わりを知る目的で、既知の阻害剤の中から及び新規物質の中から、前年度設定した条件で検索を行った。その結果、既知阻害剤の中では、スタウロスポリンのみがプロテインキナーゼCとほぼ同程度の濃度で阻害した。一方新規物質のスクリーニングには、当学部薬品製造学教室で新たに合成されたインドール誘導体29種と、微生物学教室より譲り受けた代表的な放線菌株25種の培養上清液を用いた。インドール誘導体の中には低濃度で特異的な阻害活性を示す化合物は見出されなかった。また、放線菌培養上清には、当初阻害活性や活性化活性、さらには特異性の比較的高いキナーゼ切断活性などが観察されたが、いずれも大量培養で再現できず、活性物質の詳しい解析は行えなかった。新規の物質の中から特異的な阻害剤を検索するためには、さらに数多くの試料にあたる必要がある。 これらと平行して行ったペルオキシソーム増殖薬の初期作用の解析からは、活性化を受けるキナーゼは本ヒスチジンキナーゼとCキナーゼと同定された。そのため、阻害剤としてスタウロスポリンを用いることにより、増殖薬の初期作用の少なくとも転写の活性化には、これらキナーゼは活性化されるものの必須ではない、という結論を得ることができた。
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