1.インスリン信号伝達系におけるヌクレオチドピロフォスファターゼの役割について-インスリン抵抗性肺がん細胞MDA-MB231はインスリンレセプター(IP)のチロシンのりん酸化を阻害する物質が存在する。これがヌクレオチドピロフォスファターゼ(NPPase)ではないかと考えられたので、この細胞中のNPPase活性と量、それにmRNAの量を測定した。いずれの値もこの細胞ではインスリン感受性肺がん細胞ZR-75-1に比べて著しく高い値を示した。次に正常なIRチロシンキナーゼ活性を示すZR-75-1細胞の抽出液に、NPPaseを異常に多く発現しているLowe症候群患者皮膚繊維芽細胞抽出液を混ぜ、IRのチロシンキナーゼ活性を測定した結果、IRキナーゼ活性は大幅に低下した。 2.ヌクレオチドピロフォスファターゼの5'-末端構造について-NPPaseのmRNAには翻訳開始点の候補となる2つのAUG近接して存在する。前年度までに両AUGを含むlong form cDNAと下流のAUGのみを含むshort form cDNAを作成し、in vitroの発現実験を行なったが、まだ、不明確な点が残されていた。本年度は2つのAUG部分の塩基配列を変えた変異cDNA作成し、これをin vitroで転写、翻訳させる実験を行なった。その結果、上流のAUGを開始コドンとして認識されない構造に変えたものでは全く発現がみられなかった。従って、NPPaseは上流のAUGから翻訳されているものと結論された。 3.ヌクレオチドピロフォスファターゼ遺伝子のクローニング-前年度、コスミド(pWE15)遺伝子ライブラリーの中から目的の5'-転写調節領域を含むと思われるクローンを取得したが、検討の結果、これは本物ではないことが判明した。結局、このライブラリーからは目的物が得られなかったため、ライブラリーを酵母人工染色体を使ったものに変え、PCRを利用してスクリーニングを行なっている。
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