1.ヌクレオチドピロフォスファターゼ(NPPase)の翻訳開始コドンの同定- NPPaseのmRNAは翻訳開始点と思われる領域に2つのAUGが156bp離れて存在する。両AUGを含むlong form cDNAと下流のAUGのみを含むshort form cDNAを作成し、動物細胞に導入したところ、long form cDNAを入れた細胞のみが活性のあるNPPaseを発現し、short formを入れた細胞ではNPPaseのみならず、そのmRNAも合成されていなかった。一方、2つのAUG配列を変異させたcDNAを作成し、in vitroで転写、翻訳させる実験も行なった。その結果、上流のAUGを開始コドンとして認識されない配列に変えたものでは全く発現がみられなかった。これらの結果から、NPPaseは上流のAUGから翻訳は始まっていることが明らかになった。 2.インスリン信号伝達系におけるヌクレオチドピロフォスファターゼの役割について-インスリン抵抗性細胞の中にはインスリンレセプター(IR)のチロキシナーゼ阻害物質が存在し、これがNPPaseではないかとGoldfineらに指摘されている。これを確かめるためインスリン抵抗性肺がん細胞MDA-MB231中のNPPaseの活性と量、それにmRNA量を調べた。これらのいずれの値もインスリン感受性の肺がん細胞ZR-75-1に比べ著しく高い値を示した。次に正常なIRのチロシンキナーゼ活性を示すZR-75-1の粗IR画分にNPPaseを異常に多く発現しているLowe症候群患者皮膚繊維芽細胞の抽出液を混ぜ、IRチロキシンキナーゼ活性を測定したところ、ZR-75-1細胞のキナーゼ活性は著しく低下した。これらの結果はIRチロキシンキナーゼの阻害物質がNPPasseではないかとのGoldfineらの考えを支持するものである。 3.ヌクレオチドピロフォスファターゼ遺伝子のクローニング-NPPaseゲノム遺伝子の5'-転写調節領域をクローニングしようとする試みはpWE15ライブラリーを用いた場合は不成功に終わった。現在、人工染色体ライブラリーで再挑戦中である。
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