前年度の研究から、ラット腹腔肥満細胞を抗原刺激した時のアラキドン酸遊離のうち、その大部分は、ホスホリパーゼD(PLD)の活性化により生じたホスファチジン酸(PA)がジアシルグリセロール(DAG)に変換され、このDAGからDAGリパーゼの作用によって遊離されることが判明し、ホスホリパーゼA_2(PLA_2)の寄与は少ないことが示された。そこで今年度は、PLA_2およびPLDをおのおの特異的に活性化させることを試み、それによるアラキドン酸遊離およびプロスタグランジンD_2(PGD_2)生成への影響を検索し以下の成績を得た。 1.[^3H]アラキドン酸標識肥満細胞に、PLA_2を特異的に活性化させることが知られているメリチンを作用させると、その濃度依存的にアラキドン酸の遊離が見られ、また、[^3H]コリン標識肥満細胞を同様の条件で処理すると、有意なリゾホスファチジルコリンの生成が生じた。これらの反応はエタノール存在下でPLDによるPA生成を阻害しても何の影響も見られなかった。さらに、このメリチン刺激下でのPGD_2の生成を検索したが、有意な生成は見られなかった。これらのことから、メリチンによりPLA_2を活性化しても、生じたアラキドン酸はPGD_2に代謝されず、PGD_2産生に対するPLA_2の寄与は少ないことが明らかになった。 2.ADPリボシル化因子(ARF)はPLD活性化因子の一つであることが知られているので、ウシ脳より部分精製したARFを用いて、肥満細胞のPLDを特異的に活性化させることを試みた。肥満細胞をサポニン処理し、GTPγSおよびARFを添加すると、ARF無添加に比し時間および濃度依存的に有意なアラキドン酸の遊離とPGD_2生成の増大が見られた。エタノール存在下ではこれらの反応は抑制されるとともに、PLD活性化の指標であるホスファチジルエタノールの生成が増大した。これらの結果は、ARFの添加でPLDが活性化され、それに伴ってアラキドン酸の遊離とPGD_2産生が生じたことを示しており、これらに対するPLDの寄与が確認できた。
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