研究概要 |
マウス脳核抽出液中には、activator protein-1(AP1)をはじめAP2、AP3、cyclic AMP response element binding protein(CREB)、nuclear factor κ B、octamer binding protein、promotor specific transcription factor、およびglucocorticoid response element binding protein等の転写制御因子が検出されたが、nuclear factor 1は検出されなかった。マウス腹腔内にけいれんを誘発しない用量のN-methyl-D-aspartic acid(NMDA)を投与すると、投与後2時間の時点で海馬のAP1プローブ結合能が6倍以上に上昇したが、他の脳内部位のAP1結合能には著変は見られなかった。これに対して、CREBプローブについては海馬をはじめいずれの脳内部位でもNMDA投与に伴う大きな変動は観察されなかった。海馬の細胞核抽出液を放射性AP1プローブと反応させたのち、c-Junタンパク質およびc-Fosタンパク質の抗体とそれぞれ処理すると、ゲルシフトアッセイ上で著明なスーパーシフト現象が観察されたので、このAP1結合の上昇には両タンパク質が関与することが明かとなった。さらに、タンパク質生合成阻害薬のcycloheximideはNMDA投与に伴う海馬AP1結合の上昇を有意に阻害したので、NMDA投与により海馬において特定標的タンパク質のde novo生合成が促進されることは明かである。また、5-methy1-10,11-dihydro-5H-dibenzo[a,d]cyclohepten-5,10-imineは、NMDA投与に伴う海馬AP1結合の上昇を阻止したので、NMDA腹腔内投与による海馬AP1結合の上昇がNMDAレセプター複合体を介する現象であることは明白である。以上の結果より、海馬ではNMDAシグナリングは細胞核中の特定の転写制御因子の誘導を通じて、大きな長期的機能変動を招来する可能性が示唆される。
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