細胞分化、器官形成および成長などに重要な役割を演じているアポトーシスの過程におけるDNA分解の分子機構を解明することを目的として、ラット胸腺細胞におけるエンドヌクレアーゼの動態および高分子DNAフラグメントの生成について検討した結果、以下の成績を得た。 1.アポトーシスの過程におけるエンドヌクレアーゼの動態 a.私達がラット胸腺細胞の核分画から単離したエンドヌクレアーゼはμMという低濃度のCa^<2+>で活性化され、分子量が21、000であった。したがって、これまで報告されたいずれの酵素とも異なっており、新規のものであることが明らかとなった。 b.胸腺細胞にグルココルチコイドやDNAトポイソメラーゼ阻害薬であるエトポシドを反応させることにより、アポトーシスを誘発させた時エンドヌクレアーゼ活性は変動しなかった。さらに、Ca^<2+>に対する感受性も変化は観察されなかった。 2.アポトーシスにおける高分子DNAフラグメントの生成機構 バイアス正弦電場ゲル電気泳動装置を用い、胸腺細胞の高分子DNAフラグメントの分離を行った。胸腺細胞をデキサメタゾンで処理すると、50kbpの高分子DNAフラグメントの生成が観察された。この現象は細胞をエトポシドで処置した時にも同様にみられた。したがって、このことはデキサメタゾンやエトポシドによるアポトーシスでみられたヌクレオソーム単位のDNA分解に先行して高分子DNAの分解が起こることを示すものである。また、50kbpの高分子DNAフラグメントの生成はMg^<2+>に依存しており、この過程におけるCa^<2+>で活性化されるエンドヌクレアーゼの関与は少ないものと考えられた。 以上の研究成績から、アポトーシスの生化学的な特徴であるヌクレオソーム単位のDNA分解の過程に、Ca^<2+>で活性化されるエンドヌクレアーゼの活性の上昇は必ずしも必要ではなく、本酵素の触媒作用が受けやすいようなクロマチン構造の変化などがより重要である可能性が示された。現在、これらの研究成果の投稿準備中である。
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