研究概要 |
血管内皮細胞は血管内腔を被覆する一層の細胞群であり,血管透過性の調節,抗血栓性の維持,血管壁細胞の遊走・増殖の制御等様々な機能を有する.したがって,血管内皮の傷害や機能異常が動脈硬化等の発症・進展に深く関与することは疑う余地がない.本研究においては,動脈硬化やある種の細菌感染症で併発する血栓症の背景にある血管内皮傷害について細胞生物学的に究明することを目的とした.培養ヒト臍帯静脈内皮細胞を用いて作成した傷害モデル系から得られた研究成績より,動脈硬化発症初期に見られる白血球の活性化と15-HPETE遊離は,血管内皮細胞表面の脂質過酸化をもたらし,凝固阻止因子の結合能を低下させることにより,抗血栓面としての機能を障害した.さらに,15-HPETEは血管内皮細胞の線溶因子t-PA遊離を減少させ,そのインヒビターPAI-1の遊離を増加させることにより,低線溶状態を惹起することが判明した.抗酸化剤等の添加によって部分的に傷害を軽減できたが,PAI-1遊離の増加は蛋白合成阻害剤および鉄キレーターによってのみ抑制できた.このことは,15-HPETEが直接または間接的に細胞内シグナル伝達系に変化をもたらすことを示唆する.PAI-1遊離の細胞内シグナルに関しては,膜スフィンゴミエリンの分解によって生じるセラミドがそのメディエーターとなることも明らかにした.細胞内セラミド生合成の調節も重要であり,我々はウシ脳Mtに存在する本酵素を可溶化し,その特性を明らかにした.エンドトキシン誘起の血管内皮PAI-1遊離と血栓症誘発との関連を検討した結果,エンドトキシンは血管内皮表面のヘパラン硫酸に結合濃縮されることが明らかとなった.本研究室で作製したフコイダン誘導体は,本結合を阻止しPAI-1遊離を抑制した.
|