1.培養血管細胞の細胞接着における細胞外マトリックス-インテグリン-細胞内骨格系情報伝達機構を調べた。ヒト血管内皮細胞をI型コラーゲン上に培養した時、初期接着にはα2、α3、及びβ1インテグリンを発現し、I型コラーゲンに結合し、F-アクチン線維を形成していた(これを第一次細胞外マトリックス-インテグリン-細胞内骨格システムと呼ぶ)。24時間後の細胞接着はα2β1インテグリンを介して第二次システムを再構成し、増殖を開始する。これに対し、V型コラーゲン上に培養した時、初期接着時にはI型コラーゲン上と同様α2β1とα3β1インテグリンを介して結合し、第一次システムを形成するが、24時間後には第二次システムの形成に失敗し、徐々に基質から離脱した。このV型コラーゲンからの細胞離脱は抗接着因子によるのではない。 2.血管平滑筋細胞の機能発現に対する情報伝達機構を調べた。ウサギ血管中膜より単離した平滑筋細胞は、細胞周期はG0期(表現型は収縮型)にとどまり増殖因子に反応できない。しかし、細胞外マトリックス成分であるI型コラーゲンにα1β1及びα3β1インテグリンを介して結合すると増殖因子欠損下でもG1A期(表現型は中間型)に移行する。この時始めてPDGF及びIGF-Iに反応して、G1B期(表現型は合成型)に移行し、一部はS期(表現型は合成型)にまで移行できる。EGFはS期への誘導を促進する。合成型に移行した平滑筋細胞はα3β1インテグリンによってのみI型コラーゲンと接着できる(その結合部位はRGDでもDGEAでもない配列、おそらくI型コラーゲンの3本鎖の表面に存在するまだ未知の立体配列である)。一方、熱変性I型コラーゲンへの接着は、収縮型細胞ではα1β1インテグリンによって仲介されているが、合成型細胞ではα2β1及びα2β1インテグリンによって仲介され、その結合部位はDGEA及びRGDである。また、フィブロネクチンにはα5β1及びα3β1インテグリンを介して結合する(その細胞接着認識部位の最小単位はRGD)ことなどが判明した。
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