P糖蛋白質を介する薬物排泄機構の動態学的研究

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06672233
• 研究機関: 神戸大学
• 研究代表者: 谷川原 祐介 神戸大学, 医学部・附属病院, 助教授 (30179832)
• 研究分担者: 奥村 勝彦 神戸大学, 医学部・附属病院, 教授 (60025707)
• キーワード: P糖蛋白質 / MDR / シクロスポリン / PSC 833 / 耐性克服 / 薬物動態 / ドキソルビシン / 多剤耐性

研究概要

P糖蛋白質による薬物輸送の法則性を検索する目的で、シクロスポリンDの誘導体であるSDZ PSC 833とP糖蛋白質との相互作用機構を検討した。ドキソルビシンに対する耐性が88倍に亢進したMDR1遺伝子発現細胞を用いて、抗がん剤輸送(ビンブラスチン、ドキソルビシン)に対するSDZ PSC 833の阻害活性を測定した結果、0.5μM以上の濃度でP糖蛋白質輸送を阻害し、細胞内抗がん剤濃度が5倍以上に上昇した。これはシクロスポリンAより約10倍高い阻害活性であった。他のシクロスポリン誘導体の阻害活性と比較すると、脂溶性の高いものほどP糖蛋白質阻害作用が強いことが認められ、その耐性克服効果は薬物濃度に依存した。また、SDZPSC833自身はP蛋白質によって輸送される基質ではないことも見い出した。
SDZ PSC 833は多剤耐性克服薬として臨床応用が期待されている。そこで、本邦で行われたSDZ PSC 833とドキソルビシン併用療法の臨床第I相試験結果を薬物動態学的に解析し、患者における相互作用機構並びに有効治療濃度について検討した。その結果、SDZ PSC 833は600ng/ml以上の血中濃度でドキソルビシンのクリアランスを約半分に低下させ、代謝物であるドキソルビシノールの濃度もSDZ PSC 833の血中濃度に伴って高くなった。
このように、P糖蛋白質を阻害することによって、抗がん剤の体内分布が変動し、有意な排泄遅延の起こることがヒトで確かめられた。多くの場合、抗がん剤の副作用は血中薬物濃度曲線下面積(AUC)と相関することから、今回の成果はP糖蛋白質を分子標的とする化学療法を有効かつ安全に実施する上で有意義な知見であると考える。

研究成果

• [文献書誌] Y. TANIGAWARA: "Premarketing population pharmacokinetic study of levofloxacin in normal subjects and patients with infections diseases." Biological Pharmacentical Bulletin. 18. 315-320 (1995)
• [文献書誌] M. HIRAI: "Cepharanthin, a multidrug resistant modifier, is a substrate for P-glycoprotein" Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics. 275. 73-78 (1995)
• [文献書誌] Y. TANIGAWARA: "Population pharmacokinetics of theophylline.III: Premarketing study for a once-daily administered preparation." Biological Pharmacentical Bulletin. 18. 1590-1598 (1995)
• [文献書誌] K. NISHIGUCHI: "Effect of transfection with Cu, Zn-superoxide dismutase gene on xanthine/Xanthine oxidase-induced cytotoxicity in fibroblasts from rat skin" Pharmaceutical Research. 13. 575-580 (1996)
• [文献書誌] F. KOMADA: "Effect of transfection with a superoxide dismutase expression plasmid on superoxide anion induced cytotoxicity in cultured rat lung cells" Biological Pharmaceutical Bulletin. 19. 274-279 (1996)
• [文献書誌] 伊賀 立二: "薬物間相互作用と医薬品の適正使用" 薬業時報社, 486 (1996)