筆者等はCF_3基を1個持つα-トコフェロールを合成し、これを生体膜モデルであるリポソームに取り込ませ、その^<19>F-NMRの緩和時間の測定結果に基づく考察により、ビタミンEの生体膜中での挙動を推定した。この場合の欠点はCF_3基を持つ化合物毎の測定するため、複数回の実験の結果を比較しなければならぬことになる。そのため、リポソームの調整とNMRの測定という2段階で実験誤差の入る可能性がある。これを除くためには比較したい位置にそれぞれCF_3基を持つα-トコフェロールを用いて実験を行えばよい。すなわち、同一分子中にCF_3基を2個持つ化合物を用いれば、同一のリポソーム中での挙動が1回の測定で可能なため、誤差の少ない解析が可能になる。このような観点から、CF_3基を2個持つα-トコフェロールの合成を企画し、前年度までに合成法を確立した。今年度はこれに基づく大量合成を行い、これをリポソームに取り込ませて、^<19>F-NMRの緩和時間の測定を行い、ビタミンEの生体膜中での挙動を再検討した。その結果、ビタミンEは生体膜に取り込まれた場合、側鎖部分を膜の内側の可動性の大きい部分に、クロマノール環部を膜表面の親水性部分に水素結合で固定された形で存在することが明らかになった。 また、含フッ素脂肪酸を膜に取り込ませ、これにビタミンEを添加すると膜表面の可動性が減少することが分かった。これはビタミンEが単なる抗酸化剤としてでなく、膜の機会的安定化にも寄与していることを強く示唆する。
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