本研究はWT1遺伝子のインプリンティング多型に注目し、刷り込みの有無と相関するメチル化とパターンの相違箇所を同定して刷り込み機構の解明に迫ることを目的とした。計画した4項目のうち、まず 1.胞状奇胎4例すべてでWT1は発現していなかった。(先に、発現しているとした1例は混入した母組織によることが判明した。)よって、胞状奇胎は刷り込み多型を反映する組織とは成りえないと判断し、それ以上の胞状奇胎の収集を中止した。 2.刷り込みを喪失している胎盤と保たれている胎盤RNAの定量的RT-PCRで、WT1遺伝子の刷り込みは発現を抑制するように働いているらしい知見を得た。 3.WT1遺伝子のメチレーション解析。 WT1遺伝子プロモーター領域はGC含有に富み、第一エクソンおよび上流200bpまでのGC含有率は72%に上りCG islandsを形成する。そこで、第一エクソンを含み、上流約5kbまでの領域を4つに区分してメチレーション解析を行い、刷り込み喪失胎盤と保存されている胎盤および父親由来のゲノムのみから成る胞状奇胎でメチル化パターンの相違する領域を捜した。 (1)全体的に6週から40週までの胎盤を通じて低メチル化状態だが、特に第一エクソンで低く、プロモーター領域から遠ざかるにつれて幾分メチル化の程度が進む。 (2)メチル化パターンはどの週の胎盤を通じても、刷り込みの有無に関わらず、また胞状奇胎でさえ、顕著な差がなかった。 (3)転写開始点から約3kb上流の領域は部分的メチル化パターンを示し、これが親由来依存的なものであるかどうかを確認するため、現在その領域のマーカーと成りえる多型を捜している。 4.親由来依存性メチル化相違領域のクローニングはこの領域を未だ同定できていないので未施行。
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