研究概要 |
下垂体転写因子Pit-1は成長ホルモン(GH)・プロラクチン(PRL)両遺伝子の転写を活性化するとともに、さらにおそらくは甲状腺刺激ホルモン(TSH)の転写やGH,PRL,TSH産生細胞の分化・増殖にも必要な因子である。Pit-1のミスセンス変異Arg271Trpはdominant negative効果によって複合型下垂体前葉機能低下症を発症するとされている。本研究ではこの変異をもつ女児患者を発端者として、同じ変異を有するにもかかわらず健常な保因者である父親と祖母について変異遺伝子の発現を調べた。 まず、Pit-1は下垂体特異的転写因子とされてきたが、リンパ球においても発現していることが判明したので、末梢血リンパ球を材料とし、RT-PCRによりmRNAレベルでの変異確認を行なった。 発端者女児では正常と変異の両alleleの発現があったが、父親と祖母では変異を有するalleleは発現せず、正常alleleのみ発現していた。このことはdominant-negative効果によってヘテロ接合体においても発症するはずの本変異において、ゲノム上では発端者と同じヘテロである父親・祖母が発症していないこととよく符号しており、末梢リンパ球で観察した遺伝子発現は下垂体におけるそれと同様であろうと推察された。 Pit-1異常症の遺伝解析をmRNAレベルまで掘り下げて行ったのはこれが初めてである。この遺伝はdominant-negativeとは無関係に、祖母から父親に伝わった変異alleleが発現しない「maternal imprinting」によって説明できるかのように見える。しかし、患者では母親からの正常alleleが発現しており矛盾する。pit-1が自らの転写を調節する機能を持つことから、この遺伝子あるいは本変異特有の発現調節が関与しているのかも知れない。
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