抗生物質の濫用を背景に持つメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)による院内感染で多数の死亡症例が報告され、対策が急務とされている。野田教授(1993年)のグループが分離した新しい蛋白性毒素をマウスに微量投与した所、心臓が停止し死亡することが明らかとなり、この毒素とそれによる心停止がMRSA感染死亡の原因のひとつであると推定し、MRSA産生毒素の心臓毒性について電気生理学的手法を用いて解析した。 1、マウスの心電図におよぼす影響 麻酔マウスにMRSA産生毒素(2 μg)を尾静脈投与すると、投与開始2-3分で心拍数が減少し、心電図上PR間隔の延長、QRS波形の変化が認められた。その後、徐脈、PR間隔の延長は更に高度となり、心室性不整脈も発現し、約5分で心停止を来たした。これらから、この毒素はL型Ca^<++>チャネルが重要な役割を果たす洞房結節ペースメーカー機能、房室結節伝導を抑制すると共に、Na^+チャネルが重要とされる心室内伝導をも抑制する事がわかった。 2、モルモット摘出乳頭筋標本における微小電極法による検討 次にモルモット摘出乳頭筋標本において微小電極法で収縮力と活動電位を同時記録したところ、MRSA毒素(20 ng/ml)灌流により発生張力の著名な増加、静止膜電位の減少、活動電位持続時間の短縮が観察された。あらかじめプラゾシンおよびプロプラノロールを潅流してアドレナリンα_1およびβ受容体を遮断すると、MRSA毒素による発生張力増加反応は消失した。以上の結果から、MRSA毒素は直接的に心室筋細胞に作用し細胞膜を障害して細胞内Ca^<++>過負荷を引き起こすと共に摘出乳頭筋標本にある交感神経末端からカテコールアミンを遊離させる作用を持つ事が示唆された。
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