メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)産生毒素による心停止がMRSA感染死亡の原因のひとつであると推定し、MRSA産生毒素の心臓毒性について電気生理学的手法を用いて解析した。その結果、平成6年度にはMRSA産生毒素の心臓毒性の発現に神経性機構がかかわっていることを見い出し、薬理学的に証明した。本年度は実験をさらに進めて、モルモット摘出乳頭筋標本における微小電極法による検討から、MRSA毒素により静止膜電位の減少、活動電位持続時間の短縮と共に起こる発生張力の変化は3相性であること、アドレナリンα_1およびβ受容体遮断で消失する初期の発生張力の著明な増加は、MRSA毒素の反復処置後ではもはや認められないことを示した。これらのことから、MRSA産生毒素による初期の発生張力の増加には心筋組織にある交感神経末端からのカテコールアミン遊離が関連していることがさらに明らかとなった。パッチクランプ法を用いた細胞レベルの実験を予定していたが、MRSA産生毒素の精製を大量に行なうことが難しく、この検討は出来なかった。そこで次に、本研究の遂行中に入手可能となった緑膿菌産生毒素および遺伝子工学的手法で大腸菌より得られたMRSA毒素(GST‐HS‐cytotoxin)について、マウスの心電図に対する影響を検討した。緑膿菌産生毒素もGST‐HS‐cytotoxinもMRSA産生毒素同様の心臓毒性を発現することがわかり、病原微生物の産生するサイトトキシンの致死活性の一部は、神経性の機構を介した心臓毒性にある可能性が示唆された。 今後、MRSA産生毒素のみならず病原微生物の産生するサイトトキシンの心臓毒性の機構解明のため、心筋の細胞レベルにおける検討を詳細に行なう必要があると思われる。
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