我々は覚醒剤の構造関連化合物である4-フェニルテトラヒドロイソキノリン(4-PTIQ)が覚醒剤のアミン放出作用を選択的に抑制することを示してきた。本研究においてはまず覚醒剤のドパミン放出作用の作用部位と考えられるドパミントランスポータに対する4-PTIQの直接的な作用について検討した。ラット由来のドパミントランスポータをCOS-7細胞に発現させ、^3H-4-PTIQのドパミントランスポータに対する作用を研究した。^3H-ドパミンの取込実験からNa^+および温度依存性の取込が観察され、COS-7細胞にドパミントランスポータが発現していることが確認された。また、^3H-4-PTIQにおいてもNa^+および温度依存性の取込が観察された。^3H-4-PTIQのドパミントランスポータに対する結合実験をおこなったところ、kd=727nMの特異的結合が明らかになった。以上から4-PTIQはドパミントランスポータに結合して覚醒剤と同様にアミン神経終末に取り込まれるが、覚醒剤が持つアミン放出作用は弱いため、なんらかの機序で覚醒剤のアミン放出作用を抑制するのではないかと考えられた。次に4-PTIQの臨床応用をめざし、覚醒剤慢性中毒のモデルである逆耐性動物を用いた研究を行った。メタンフェタミンを3-4日おきに4回皮下投与すると移所行動増加作用が強くなった。5回目投与前に側坐核にプロプラノロールを投与すると移所行動の増加が抑制されたが、プロプラノロールは覚醒剤の1回目投与では抑制しなかった。4-PTIQは覚醒剤の1回目の投与時でもこれを抑制するため、4-PTIQは逆耐性に選択的とは言えなかった。以上から4-PTIQは覚醒剤慢性中毒モデルには有効ではないと思われ、今後、急性モデルを用いる研究が必要であると考えられた。
|